みなとみらいの猿部長

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木曜日にプロジェクト顧客と問題点の打ち合わせを行い,仕様変更の見積り依頼を受けた。回答納期は土曜日中というムチャクチャなもの。おまけにシステム仕様を理解している要員は,このトラブルで優先作業を抱えていて,連日寝ることもできない状況になっているのにつけ,とても見積り検討を頼めたものでない。しようがなく私が見積りを作ることにして,そうはいっても確認したいこともあり,その担当者に打ち合わせのアポをとった。今日,といってももう昨日になるが,午後その担当者の会社に出向いた。横浜みなとみらい三丁目三番二クイーンズタワーB27階。

新川崎から横浜に出て,根岸線に乗り換え桜木町駅で降車。こんなに近くに住んでいるのに何年ぶりであろうか。クイケン兄弟によるバッハの音楽の捧げものを横浜音楽堂で聴いて以来かな。

ランドマークタワーが堂々と聳え立っている。その奥に,これもまた偉容を誇る三本のクイーンズタワーが見える。右手には日本丸の白い帆船,観覧車。海。こんなハイカラな場所,ビルディングに拠点を構えるソフト会社の社風はどんなものか。実は私にはあまりよいイメージがない。ステータスばかりを気にする。地道な仕事でこんな富は得られるはずがない。そんなふうに思ってしまう。自分はものを作らないで金にものをいわせて他人の成果を横流ししてのし上がった,あの六本木ヒルズのひとたちを連想してしまう。

「いそがしいので担当者のキープは30分くらいでお願いします。」そこの部長がヌケヌケと釘をさす。彼とは三日前,体制強化の件で打ち合わせしたのだが,このトラブルシステムをなんとか納期どおりに動かさなくてはという気概がみじんも感じられず,私の戦犯リストに加えた"ひとり"である。私も狩り出されたクチであるが,客と打ち合わせして困った様子を見,その原因がウチにある以上,なんとか動かさないとという闘志がわいてくるのであるが,こいつは業者根性がしみついていて,やけどをしないうちに逃げようという魂胆がミエミエなのである。何も赤字を抱えて仕事をしろなんていってないではないか。

上長とは対照的に担当者は技術者であった。私の確認事項にいやな顔ひとつせず資料を調べ,説明してくれる。きちんと過去の記録を出してきて確認しながら,じゃこうしておきましょうかとの私の意見にも,ここがあぶないとか,ここは顧客に聞かなければわからないとか,良心に照らして発言する。技術者とはそういうものである。名刺を交換する。芝公園に本社のある,こことは別の会社の社員で,要するに私からみると二次外注である。昨今,そんな小さな会社のソフト技術者のほうが良心的で,確な技術力を備えたヤツが多いのだ。

ところで,技術力というものを超絶技巧のことだと考えているひとがいる。まったく違う。定義された専門素養を確実に実行できる能力のことである。これが世の中を支えているのである。超絶技巧はだれにもマネができないので担い手がいなくなればその「作品」は一代でお墓なのである。技術者に天才は不要なのである。天才がたいてい不幸な末路をたどるのはこのためだと思う。

40分くらいしたら,猿部長がわって入ってきた。時間ですよ。いいでしょう,約束ですから。「約束」というところをいやみったらしくいってやった。

帰り,ランドマークの展望台に道草しようかなーなんて気がふらふらしたのだが,天気も悪いし宿題はいっぱい抱えているし,まっすぐ帰社した。帰路はクイーンズタワーの地下から乗車できる横浜地下鉄に乗った。もどってから,二三電話でかの担当者に問い合わせを行ったところ,猿部長から私の行動に対しプロジェクトマネージャ(ウチの部長)宛にクレームの電話があったようだ。決めた。この猿部長をクビにして(とはいえ私には権限はない),オレが必ず動かしてやる。私は私の仕事をしなければならない。かまうものかと,これまたいやみったらしく「本日の打ち合わせはドクターストップがかかってしまいましたが,それでもメールいたします」と見積りに関する確認事項のメールを送りつけてやった。

トラブルプロジェクトとはこのように巻き込まれるひとの人間が丸出しになってしまうのである。よってもって私も人生経験だと割りきって仕事をするしかないのだ。

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ISAO YASUDA。システムエンジニア。神奈川県在住。昭和 30 年代を懐かしむオヤジ。ロシアに興味があります。
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Written by isao at 2006年2月25日 03:04.

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