だまされてしまう話

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おもしろい話を読んだ。

「アメリカの学生が、ジハイドロジェンモノオキサイドという名前の化学物質の禁止を訴えて署名活動を行ったことがある。
『ジハイドロジェンモノオキサイド(以下 DHMO)は、無色、無臭、無味である。そして毎年数えきれないほどの人を殺している。ほとんどの死因は DHMO の偶然の吸入によって引き起こされている。その固体にさらされるだけでも激しい皮膚障害を起こす。DHMO は、酸性雨の主成分であり、温室効果の原因でもある。
 DHMO は、今日アメリカの、ほとんどすべての河川、湖および貯水池で発見されている。それだけでない、DHMO 汚染は世界に及んでいる。汚染物質(DHMO)は南極の氷からも発見されている。アメリカ政府は、この物質の製造、拡散を禁止することを拒んでいる。
 今からでも遅くない! さらなる汚染を防ぐために、今、行動しなければならない』
 多くの人が署名したという。」

これは講談社ブルーバックスの一冊『新しい高校化学の教科書』からの引用である。ジハイドロジェンモノオキサイドというのは水のこと。私はお恥ずかしながら、知識がなかった。とはいえ、私と同様、へえ、そんなこともあるんだ、とだまされるひともいると思う。京都議定書を批准しないアメリカのことだから隠れた環境問題もあるに違いないなどと、へんな勘繰りさえしてしまうかもしれない。

ジョークの構造は、化学の無知と小難しい学術名の扇る恐怖感とを前提としているが、さらに、興味深い教訓を示唆する。問題論はことの本質とバランスとをよく見極めて捉えなければならないということ。ジハイドロなんとかではなく水といわれれば、ジョークが成り立たないのは、実は情報操作の危険性をも暗示しているように思われる。水は場合によって恐ろしい凶器になり、水が原因で死ぬひとはたしかに少なくない。年間1万人以上の死者を出す交通事故が注意すべき日常的危険に貶められていて、自動車を廃止せよとは誰もいわない。一方、米国産牛肉と BSE(vCJD)との関係は根拠が薄いだけでなく、牛肉を食べて vCJD に罹患した日本人は明確には確認されていないのに、恐怖が過剰に扇られて米国産牛肉が輸入禁止に至ることもある。腐った牛肉を食べて死ぬことのほうが圧倒的に現実的な問題ではなかろうか。もっとまじめに取り組むべき問題が他にあるのではなかろうか。アメリカの学生の行動力あるブラックなジョーク精神には見上げたものがある。

同様に、ことによったら足下を掬われかねないような論理構造をもつジョークに、次のようなものがある。

「このたび、肺癌のおもな原因を明らかにする重大な発見があった。肺癌患者のほとんど全員が毎日パンを食べていたことが判明したのだ」

たしかロシアのアネクドートだったと思うがどこで読んだのか思い出せず、また内容もあやふやなのが悔しい。こういう論理を --- 本人自身その欠陥を認識せずに --- 使う輩がいるので注意したい。

新しい高校化学の教科書
左巻 健男
講談社 (2006/01/21)

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Written by isao at 2006年8月 9日 23:31.

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