新潮文庫から刊行されているサイモン・シン著『暗号解読』を読んだ.『フェルマーの最終定理』で有名な著者によるサイエンスノンフィクションである.仕事の上でも RSA 暗号や DES 暗号は身近なテクノロジーであるし,企業が個人情報の取り扱いにつとにセンシティブになっている昨今,機密情報管理への関心は世の中一般に高まっている.
本書は,秘密の文書を交換するための人間の歴史を概観させてくれるとともに,軍事機密と技術革新のうらに隠れた人間ドラマをも紹介している.そこがこのような本の核心である.英国情報部の徹底した秘密主義にあって,三十年もの間そのアイデアや開発実績を世間の誰からも認知されなかった人々の逸話が面白かった.コンピュータの計算理論において不朽の名を残したアラン・チューリングが第二次大戦時の英国暗号解読活動に大きな功績を残したということを,はじめて知らされた.彼がホモセクシュアルの追及を受けて悲劇の最期を遂げたことも.
本書が述べているもうひとつの興味深いテーマは,古代の言語・文字の解明である.解るように記したはずが,歴史の過程で失われた意味の繋がりを再構成する試み.ここでも目的は異なれ,暗号解読の基本的技術が大きな役割を果たしたという主旨を述べている.面白いと思うのは,このアプローチは文学テクストなどの隠された意図や背景の探求にも有効ではないか,ということ.文学研究においても記号学というのがあって,テクストをコード化されたものと捉えてその現象の意味や機能を記述する訳であるが,記号学においては暗号解読技術における統計・数学的アプローチを私はみたことがない.
量子コンピュータ,量子暗号の話は,私にはさっぱり解らなかった.面白いことが起こりつつあるということだけ.
新潮社 (2007/06)
新潮社 (2007/06)
ところでこの本,Amazon の売り上げランキングが上巻:732位,下巻:631位(07.12.10現在)となっている.売れていることがわかるが,下巻の方が高いのが面白い.



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