神代辰巳監督特集・『もどり川』

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先日の朝日新聞(9 月 9 日)神奈川ローカル面に「KAWASAKI しんゆり映画祭」の記事が掲載されていた。この映画祭は毎年この季節に開催される市民映画祭である。15 回目を迎える今年は,川崎市麻生区ゆかりの映画監督・神代辰巳の特集である。ちょっと驚き。神代辰巳といえば日活ロマンポルノの巨匠。こんなポルノ映画監督もその「芸術的価値」によって映画祭のテーマとなりうる時代なのである。いいんだか悪いんだか。私としては大歓迎だけど。

私は彼の作品をいくつも観て来た。黒澤明,鈴木清順などと並んで指を折りたいひとりである。『一条さゆり 濡れた欲情』(1973 年),『赫い髪の女』(1979 年),『赤い帽子の女』(1982 年),『もどり川』(1983 年)などなど。とくに『もどり川』は私の観た邦画のなかでも最良の作品である(なのに DVD が発売されないのが悲しい)。いずれも存在の最終的な砦であるかのように性を激しく生きる女性と,彼女たちを巡るヒモ的ダメ男たちを描いている。私はここに性「愛」というようなものは感じなかった。もっと直接的で,それこそ体を張る凄みがあった。男は本質的に女のヒモだという思想に徹したニヒリスティックな作品に見えた。「愛情」なんてかけらもない非情なところが私にとっての神代ポルノグラフィの凄い点である。それゆえにストリッパーや娼婦という職業は落ちるところまで落ちた女の恥ずべき境遇である,という視線はこなごなにされた。それでもやはり秘めやかであることをやめない。彼の映画によって,樋口可南子や原田美枝子,伊佐山ひろ子といった「体を張った」女優たちが私にとって忘れられないものとなった。

KAWASAKI しんゆり映画祭」は 9 月 19 日から 27 日まで,小田急線新百合ケ丘駅周辺で開かれる。でも,私には神代辰巳作品の「芸術性」をあんまり云々したくない。あの「イヤらしさ」に共感できることはある意味で恥ずかしい。昔の日本のポルノは今のアダルトビデオなんかよりも何倍もイヤらしく,陰湿で,残酷で,非情で,そして危険だったのだ。魂を鷲掴みにしてしまったのである。

* * *

神代辰巳監督による映画『もどり川』は,萩原健一,樋口可南子,藤真利子,原田美枝子,蜷川有紀主演,1983 年東宝作品。残念ながら「KAWASAKI しんゆり映画祭」では放映されない。

原作は連城三紀彦の『戻り川心中』である。神代映画を観たあと,私は時を置かずこちらも読んで心を動かされた。主人公・苑田岳葉は女を変えながら心中未遂事件を起こし,そのたびに優れた歌集を出す短歌界の異端児である。彼の心中スキャンダルは厭世ゆえか,それとも作歌のためのフィクションなのか。そのどちらでもあり,どちらでもないのだろう。そういう芸術家の危うい性(さが)を描いた美しいミステリーである。『宵待草夜情』,『変調二人羽織』とともに,これが連城三紀彦作品のなかでもっとも私の好きなものである。最近どうしてこのような「浪漫的な」ミステリーにお目にかかれないのか。

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ISAO YASUDA。システムエンジニア。神奈川県在住。昭和 30 年代を懐かしむオヤジ。ロシアに興味があります。
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Written by isao at 2009年9月16日 21:39.

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