"sator arepo tenet opera rotas" というラテン語の格言がある。いくつかの古代遺跡の壁面に刻印されているそうである。「種蒔く人は収穫を保有し収穫は種蒔く人を保有す」という意味である。これだけだとなんということもなさそうに思われるが,次のようにしるすとその驚くべき姿が見えて来る。
S A T O R A R E P O T E N E T O P E R A R O T A S
左上から右横,下方へ読んでも,右下から左横,上方へ読んでも(つまり逆から読んでも),さらに,左上から縦下に,右方へ読んでも,右下から縦上に,左方へ読んでも,同じ。しかも真ん中の TENET は上下・左右で回文をなし,十字架を形成する。
これは「魔法陣」と呼ばれるものである。クロード・ロスタンによれば,その起源,言語学的・宗教的意義について,学者の意見が一致していないという。それにしても,精巧にして不思議。くらくらして来る。
作曲家アントン・ウェーベルンはこの魔法陣に霊感を得て,12 音列を展開した曲を書いた。九つの独奏楽器のための協奏曲作品 24(1934 年)。音による点描のような断片的な無調音楽に聞こえるが,現代音楽好きは簡素な美しさに魅せられる。その枯淡の音像のなかにじつはこの魔法陣のような精巧な規則性があると思うと,くらくらして来る。
「種蒔く人は収穫を保有し収穫は種蒔く人を保有す」— 私はこの格言を,クロード・ロスタンによるウェーベルンの作品論(クロード・ロスタン『ウェーベルン』店村新次訳, 音楽之友社, 1975 年)によって知った。ウェーベルンの短く緻密な音楽様式を象徴するに相応しい言ではないだろうか。しかし,上記のごとき魔法陣の神秘性を取り除いても,含蓄あることばである。私は仕事の上での座右の銘にしている。仕事とその成果との循環性を鼓舞しないと,日常性に耐えきれなくなってしまうのである。私はまた,この格言で弊 Web サイト・トップページを飾らせてもらっている。
Berliner Philharmoniker
Ensemble InterContemporain
Emerson String Quartet, et al.
Deutsche Grammophon (2000-05-09)
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