妻が大貫妙子の新譜を買って来てくれた! 『UTAU』。大貫妙子のボーカルと坂本龍一のピアノによる作品集である。アルバムのために書き下ろされた曲『a life』が入っているけれど,ほとんどはすでに出ている作品の再アレンジである。大貫妙子は志賀直哉や日影丈吉みたいな作品集の出し方をする。
私の大好きな曲『夏色の服』も入っていた。涙がちょちょぎれるくらい感動しております。最近のくだらない JPOP に嫌気がさした人にぜひお勧めします。ションベン臭い音楽シーンに息詰りそうな人に。可愛い女の子集団がテレビ画面のなかで飛び跳ねているのに,終末を感じないではおれない人に。
今日午后,テレビで J リーグ,名古屋グランパス VS 湘南ベルマーレの一戦を観た。グランパスが初優勝を決めた。ストイコヴィチとトヨタ社長が抱き合っていたのが印象的である。野球の中日もリーグ優勝を果たし,米国で叩かれたトヨタも業績を回復しつつあり,ここでグランパスの J1 初制覇が成った。名古屋は絶好調である。
日本は東京の文明だけで成り立っているんじゃない — これをキモに命じよう。
昨夜,田町の顧客との打合せのあと,子分と飲みに行った。麦酒をジョッキで 4, 5 杯飲んで帰る途中,猛烈にラーメンを食いたくなった。京浜東北線に乗った行きがかりでそのまま川崎まで行って下車した。もうすでに 23 時半になっていたが,電車がなくなれば自宅まで歩けばよいと腹を括った。
チネチッタすぐ横にある横浜家系のラーメン屋に入った。醤油豚骨に豚角煮をトッピングしてもらった。食いながら,店にあった週刊誌『週刊大衆』を読む。
これは 50 年くらいの歴史を持つエロ週刊誌である。ヤクザ記事,芸能ゴシップと下半身ネタばかりの下劣週刊誌の代名詞のようなヤツである。『仙台美女にアソコ見せて』 — ハイハイ。『上戸彩VS黒木メイサTV界を揺るがす『CM女王バトル』最前線』,『芸能美女の『淫ら下半身』み~んなバラす!』,等々の記事。読者はこれらを読んで大いに楽しむわけだが,その真実性についてはまったく信じていないはずである。それが「大人」というものである。西野翔のヌード・グラビアを観た。ラーメンの汁が器の横に広げたグラビアの乳首のあたりに飛び散って,「すみません」とそれを拭い取らなければならなかった。『日本が着々と推し進める『ゴロツキ中国ブッタ斬り』裏工作』なる記事は,レアアース禁輸を受けた中国包囲外交について,意外や意外,菅政権を評価していた。菅政権を叩くことしか考えないバカ・ネット右翼の戯言や一般新聞の記事に呆れ返っている私としては,いたく興味深かった。この週刊誌には『エッチ倍増袋とじ』なるページがあったのだが,信じられないことに封がされたままであった。ビリビリ破いて見るのは,大人げないと思い,やめました。
さとう珠緒が連載記事を書いていた。あの「プンプン」のぶりっ子ぶりで恐らく世の女性から嫌われまくっているこのさとう珠緒が,私は大好きなんである。彼女が『オーレンジャー』でデビューしたのをリアルタイムで観て知っているのは,当時幼い子供のいた私のようなオヤジだけだろう。悪の組織にいたぶられて,「お前たちを赦さない!」なんて激烈な台詞を叫ぶことができるのは,ヒーローものに出た俳優の特権である。彼女の書いたというその記事は,中村玉緒がとても優しい人である云々。「プンプン」と同じくらいくだらないものだった。
それでも。この『週刊大衆』を私は高く評価している。阿佐田哲也の名作『麻雀放浪記』を長期連載した雑誌,というだけで何が何でも支持したくなるんである。
角煮入りラーメンは量が多すぎた。全部食ったら,酔いの煽りで気持ち悪くなって来た。ラーメン屋を出て川崎駅に向かう途中,「お兄さん,遊びませんか」と女に声を掛けられた。川崎駅前・新川通り沿いはこの手の女(おそらく売春婦)がうじゃうじゃいる。中国人か韓国人が多いように思う。ちょっと不憫になる。手を振って追い払って,南武線最終のひとつ前の電車で帰宅した。
D. Smirnov から,彼による松尾芭蕉句のロシア語訳についてチェックしてくれとの依頼を受けた。英語,ロシア語で手に入るいろんな芭蕉関連文献を丹念に調べていて頭が下がる。最近,Jane Reichhold による "Basho. The Complete Haiku" なる英訳全句集が Kodansha から出て,目下それに首っ引きだそうである。また芭蕉の俳句に基づく室内歌曲を作曲してほしいものである。
チェックを頼まれたのは,芭蕉寛文時代の最初期の 10 句である。日本語記述の誤りを正し,加藤楸邨『芭蕉全句(上)』(ちくま文庫,1998 年)から興味深い記述をロシア語に翻訳して送ってあげた。私は芭蕉の専門家でもないので,それくらいのお手伝いが関の山である。寛文時代の芭蕉の句は,私にはどうもイマイチである。「夜竊虫は月下の栗を穿つ」(延宝八年)— 冴え冴えとした静かな狂気に恐ろしくなる名句である — のような,漢詩文の伝統を巧みに詠み込んだ句あたりからがいいと思う。
Jane Reichhold
講談社インターナショナル


