学習性無力感

「学習性無力感」という心理学用語がある。Wikipedia によれば「長期にわたって,ストレス回避の困難な環境に置かれた人は,その状況から逃れようとする努力すら行わなくなる」という心理学説である。

私はこのコトバを何年か前に観た邦画(ピンク映画である。あまりにもたくさん観て来たので,タイトルはもう忘れてしまった)で知った。映画では,ある女子大生・主人公がチンピラに犯され,その際盗撮されたビデオをもとに強請られ,詐欺の片棒を担がされ,不断の性的/肉体的暴力にさらされる。チンピラへの倒錯した一縷の愛情と握られた弱みとのために,彼女はそこから逃げたくてもできず,半ば絶望的にチンピラの言いなりの生活を悶々と送っている。もうそんな生活を清算する気力も失せてしまっている。こうした境遇を象徴するように映画のなかで「学習性無力感」というコトバが発せられる。女子大生は,結局,チンピラを殺害してバラバラにし山中に埋めるという,もっとも極端な暴力的手段によって,「学習性無力感」から解放される。

就任したばかりの鉢呂吉雄経済産業相が,福島原発事故被災者を逆なでするような失言をしたとして,話題になっている。たしかに「死のまち」,「放射能つけてやる」なんて言草は大人げない。原発事故,被災者をナめているのかと映る。でも,これ,わざわざ国民に知らしめて,「とんでもない,許せない」と騒ぎ立てるような話だろうか? 誰でも口が滑ることがある。「大臣ともあろうお人が」という気持ちもわからないではないけれども,やっぱり「失言」に過ぎない。こんなことより,目下の政策実行状況を直接示すような,国民に知らしめるべきもっと大事なことがほかにあるのではないだろうか。マスメディアがたかる話題がどうも腐っている。そしてこういう腐ったような騒動で政治家が振り回されている。じつはマスメディアこそがいまの政治的閉塞感を隠然と煽っているのではないか,という思いに私は駆られてしまう。政治家は選挙で首をすげ替えることができるのに対し,マスメディアや官僚機構は国民の意思でもってこれができない。よって変えたくても変えられない。おそらく日本の現在の政治的閉塞感は,このような状況から来る「学習性無力感」に近いのではなかろうか。

この政治的「学習性無力感」から解放されるにはどうすべきか。そんなこと私が知る由もない。ただ,上記映画の主人公が殺人という暴力的手段に訴えたのと同様に,ヒトラーやスターリンといった,強烈なリーダーシップを発揮する超過激なカリスマ政治家・独裁者(官僚もマスコミも震え上がる,人権などに拘泥しない指導者)の登場を期待するような世情になってしまうとすれば,これこそ危惧すべき不幸ではなかろうか。小泉さんはカリスマ性を備えていたためにきわめて人気が高かったが,彼は幸いにも独裁的権力欲よりも良識のほうが強かった。もとより,強力なリーダーシップは常に求められている。狂人的リーダーが熱狂的に迎えられる風潮は起こりえないことではない。ま,その意味では野田さんは,目立たないミッドフィルダー志向の「どじょう」であらせられるようなので,あんまり心配はなさそうである。よって,まだまだ政治的「学習性無力感」は続くというわけである。
 

2011/09/22 付記

私の上記ブログ記事に対し,ある真面目な友人から「それなら新聞を買わない,テレビを見ない,そういうキャンペーンを Facebook あたりで張ってみてはどうか」という意見をもらった。

いや,私はマスメディアを否定しているのではない。新聞やテレビ/ネットは,いかにくだらない話題にフォーカスしているとしても,一方でまともなニュースも流してくれるわけである。普段バカばっかり言っていて呆れさせてくれるんだけど希に愛すべき好いことを言う友人がいて,そのために付き合いを止められない,そういうことがある。マスメディアもこれと同じ。だから,概して信用していないといいながら私は新聞を読むのをやめたくない。むしろ,マスコミのことを「マスゴミ」などと腐してその不要論をかざす奴を,それこそ「バカ」だと私は思っている。

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ISAO YASUDA。システムエンジニア。神奈川県在住。昭和 30 年代を懐かしむオヤジ。ロシアに興味があります。
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Written by isao at 2011年9月10日 20:01.

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